1854年にオランダ・アムステルダムにて創業したロイヤル・アッシャー。
「オランダ文化を辿る、ジュエリーの物語」では、アムステルダム在住のエディター&ライター、岩間まき氏とともに、オランダ文化やアムステルダムの街を辿りながら、ロイヤル・アッシャーのジュエリーが生まれるに至ったインスピレーションをご紹介。
第4回目は最もオランダらしいこの季節を代表するチューリップとキングスデーについて語ってもらいました。
日照時間が延び、穏やかな陽射しが心地よい今の季節、オランダは一年で最も活気に満ちる時を迎えている。
なぜなら、チューリップ・シーズンとキングスデーという、オランダの文化と歴史を感じられる二大イベントが開催されるからだ。
オランダとチューリップの歴史
オランダといえばチューリップが象徴的だが、実はその起源は中央アジアの山岳地帯に遡る。この地域に野生種のチューリップが自生していたことから、原産地として考えられている。
11世紀から12世紀にトルコへ伝わり、16世紀にはオスマン帝国のスルタン(皇帝)が権力にまかせて各地からチューリップを取り寄せ、宮廷に植えさせていた。その後、オーストリアのトルコ派遣大使ブスベックによってヨーロッパにもたらされたとされている。
ちなみに「チューリップ」という名称は、トルコ語でターバンを意味する「Tülbend」に由来すると言われている。これは、花の形がターバンに似ていることに由来するらしい。
オランダでチューリップの普及に重要な役割を果たしたのが、先駆的植物学者カロルス・クルシウス(Carolus Clusius)である。1593年、彼はオランダ最古の大学であり、ヨーロッパ有数の研究機関として知られるライデン大学の植物学教授および植物園長に就任した。
園の発展や植物の収集・調査に尽力し、オスマン帝国からもたらされたチューリップの球根をその植物園に植栽した。そして翌1594年の春には、その開花が記録されている。
17世紀になるとオランダではチューリップが富裕層の間で珍重され、希少な品種には高値がつけられるようになった。
こうした熱狂はやがて「チューリップ・バブル」と呼ばれる投機的な市場を生み出したが、1637年2月にこのバブルが崩壊し、多くの個人投資家や商人が経済的な損失を被ることとなった。
しかしその後もチューリップ栽培は続けられ、やがて技術の進歩と流通システムの整備により、1880年代後半にはオランダは世界的なチューリップ輸出国としての地位を確立した。

オランダはチューリップ栽培に適した気候と土壌を有しており、特にライデンからハーレムにかけて広がる「Geestgronden」と呼ばれる砂質土壌の地域が主要な生産地となっている。
さまざまなチューリップのイベント
毎年1月の第3土曜日を「ナショナル・チューリップ・デー」と制定し、アムステルダムのミュージアム広場では、チューリップ・シーズンの幕開けを祝うイベントが開催される。市民や観光客は無料でチューリップを持ち帰ることができる。

3月下旬から5月中旬にかけては、アムステルダムから車や専用バスで40分ほど南下したリッセにある、世界的に有名なフラワーパーク「キューケンホフ公園」が期間限定でオープン。800種類以上のチューリップを鑑賞することができる。

アムステルダム市内では、今年で11年目となる「チューリップ・フェスティバル」が開催。シーズン中は、街中の通りや広場、橋や公園、美術館やホテルの庭園など、さまざまな場所にチューリップが植えられる。
オランダ国王の誕生日を祝う「キングスデー」
チューリップ・シーズンと並び、オランダを象徴するもう一つの重要なイベント「キングスデー(Koningsdag)」がある。
「キングスデー」は、オランダにおける国王誕生日を祝う、国民的な祝祭日である。
1885年、当時のユトレヒト州の新聞記者が、国家の統一を祝う目的でウィルヘルミナ王女(後の女王)の5歳の誕生日を記念して「プリンセスデー(Prinsessedag)」を開催したことに始まる。当初、この祝祭は主に地元住民を中心とした子ども向けの祝賀イベントであった。
1890年にウィルヘルミナが10歳で即位すると、この祝祭は「クイーンズデー(Koninginnedag)」と改称された。彼女は第一次世界大戦において中立政策を維持し、第二次世界大戦中にはナチス・ドイツの侵攻を受け、亡命先のロンドンからレジスタンス運動を支援し、国民の士気を高めることで、オランダの独立と自由の象徴的存在となった。
以降、歴代君主の誕生日にあわせて祝われ、2013年まで続いた三代の女王統治のもとで、この祝日は国民の間に広く定着した。
2013年に即位したウィレム=アレクサンダー国王は、オランダにおいて123年ぶりの男性君主であり、これに伴い名称も「キングスデー」へと変更された。
誕生日である4月27日が正式な祝日と定められているが、本年のようにこの日が日曜日に当たる場合には、前日の土曜日に繰り上げられる。
ウィレム=アレクサンダー国王は、多数の飛行資格を有し、オランダの航空会社KLMで副操縦士として勤務していたユニークな経歴を持つ。
また国家元首として、持続可能性の推進に取り組んでおり、水管理や気候変動対策、再生可能エネルギーの普及、持続可能な農業の発展など、多岐にわたる分野で指導的役割を果たしている。
マキシマ王妃はアルゼンチン出身で、ニューヨークの金融機関での勤務経験を持つ。国王との出会いを経て結婚した後も、金融包摂の促進、中小企業の支援、外交活動、音楽教育の振興など、幅広く精力的に活動している。

現代的な経歴を持ちながら、国民からの信頼も厚いマキシマ王妃。生い立ちから結婚に至るまでを描いたドラマシリーズ『マキシマ』(2024年)が制作されるほど、多くの人々の関心を集めている。さらにトレンドやカジュアルからフォーマルまで自在に着こなすことでも知られ、ファッションアイコンとしての一面も持つ。
ロイヤルファミリーはキングスデーに毎年異なる都市を訪れ、国民と直接交流するのが恒例となっている。本年度は、オランダ東部、ドイツとの国境にも近いドゥーティンヘム(Doetinchem)という街をご訪問されている。

photo by Patrick van Katwijk/Getty Images
2024年のキングスデー当日に、オランダ東部ドレンテ州のエメン(Emmen)を訪れた際のロイヤルファミリー。
このように、社会との積極的な関わりを通じて国家の発展に寄与するだけでなく、国民との対話も重視する両陛下は、高い支持を得ている。
キングスデー当日のアムステルダム

photo by Paulo Amorim/Getty Images
アムステルダム中心部では、人々がオレンジ色の衣服やアクセサリーを身につけ、運河にはオレンジ色に飾られたボートが浮かび、祝祭ムードに包まれる。
オレンジ色が象徴とされるのは、1815年にオランダ国家の礎を築いた初代国王が「オラニエ公(Prins van Oranje)」の称号を持ち、そのオラニエ(Oranje)がオランダ語で、オレンジ色を意味するためである。
そしてこの日は、子どもから大人までが自由に物品を販売できる日となっており、至る所でフリーマーケットが開催される。
オランダ王室とロイヤル・アッシャー
オランダ王室より、1980年に「ロイヤル」の称号を授けられたロイヤル・アッシャーには、オランダ王室と所縁の深いエピソードがある。
ウィレム・アレキサンダー国王の母、ベアトリクス前女王の依頼を受け、エドワード前社長が、ナショナルカラーであるオレンジカラーのダイヤモンドを、自らカット、研磨し、お納めしたのである。
2年後、アルゼンチンから嫁ぐと報道された未来の妃の薬指には、美しいオレンジダイヤモンドをあしらったエンゲージリングが輝いていた。お二人の婚約報道を知ったエドワード前社長は、大変驚き、歓喜したと後日語っている。
エドワードは、オランダ王室の王妃のために、エンゲージリングを飾るオレンジダイヤモンドを用意したのである。
春の彩りを添えるフロリアード コレクションと
オレンジダイヤモンドのリング

精巧にデザインされたチューリップのモチーフは、春の訪れや新たな始まりを象徴する今の季節にふさわしい逸品です。日常の装いにさりげなく華やぎや上品さを添えてくれます。

エネルギッシュで暖かみを感じさせるオレンジカラーは、個性を際立たせながらも気品が漂い、洗練された印象をもたらします。存在感のあるリングをお探しの方にもお薦めしたい一点です。
参考文献
Amsterdam Tulip museum
「オランダ史」河出書房新社
「Door de Ogen van de koning 」Meulenhoff
「De Bork en van orange 」Patrick Bernhart
「Willem Alexander」Jan Hoedeman
「Willem IV Van prims tot koning 」Jan Hoedeman-Remco Meijer
「De achilleshiel van de koning」Monarchie ondér druk
「MÁXIMA Meer dan Majesteit」Rick Evers
「Maxima Princes moeder moderne vrouw 」Yvonne Hoebe
「De magie van Maxima」Josiane Droogendijk
岩間まき
東京都出身。学生時代からファッション誌に携わり、大学卒業後はインターナショナル・モード誌、ラグジュアリー・ファッション誌で編集を担当。独立後も編集、海外コレクション取材、ブランドやウェブサイトのディレクションやライティングなどを手掛けている。フランス・ニース、アメリカ・ノースカロライナ州での海外生活を経て、オランダ・アムステルダムに現住。趣味は読書と絵画鑑賞、旅行、カフェ巡り、そして体を動かすこと。