オランダ王室より「ロイヤル」の称号を授けられた唯一無二のダイヤモンドジュエラー、ロイヤル・アッシャーが、英国王室研究家、にしぐち瑞穂氏に語っていただく『英国王室とダイヤモンド』〝ロイヤル・アッシャーが辿るチャールズ国王戴冠式までの軌跡″。2023年5月6日に執り行われたチャールズ国王の戴冠式の続編として、当日の王室の方のファッションについて語っていただきます。
2023年5月6日に粛々と行われた戴冠式。その様子については前回速報でお伝えしたが、今回はその2日後に公開された公式画像を含め、英国王室を率いるトップレディの皆様とオランダ王室の女性方のファッション、そしてジュエリーに特化してお話ししたい。
まずは、戴冠式後バッキンガムパレス内、ステート・ルームにて撮影された、チャールズ国王新体制といえる、公務に従事される高位メンバーの方々とのお写真がこちら。
左から、ケント公爵、グロスター公爵夫人、グロスター公爵、サー・ティモシー・ローレンス、プリンセス・ロイヤル(アン王女)、チャールズ国王、カミラ王妃、ウィリアム皇太子、キャサリン皇太子妃、エディンバラ公爵夫人、アレクサンドラ王女、エディンバラ公爵。
こちらの10名の方々が、今後王室のスリム化を図ろうとされる、チャールズ国王の右腕となり、サポートをされるメンバーとなる。
チャールズ国王と
カミラ王妃の戴冠式ローブ
歴史的な戴冠式において、伝統に則り、国王と王妃はそれぞれ2着のローブをお召しになった。
1着目は、ウェストミンスター寺院に到着時に着用する“ローブ・オブ・ステート”と、戴冠式後にウェストミンスター寺院を出発する際に着用する”ローブ・オブ・エステート“が2着目。
チャールズ国王の“ローブ・オブ・ステート”は真紅のベルベット製で、1937年の戴冠式で祖父ジョージ6世が着用されたものと同じ。戴冠の儀式に備え、ベルベットはロイヤル・スクール・オブ・ニードルワーク(王立刺繍学校)で保存がなされ、裏地と金のレースはイード&レイヴェンスクロットで保管されていた。
国王陛下の”ローブ・オブ・エステート”もやはり同様に、1937年ジョージ6世が着用されたもので、こちらは紫色のシルクベルベット製に金色の刺繍が施された国王のためのローブ。
イード&レイヴェンスクロットが、ローブの保存と準備を手がけた。
一方、カミラ王妃の”ローブ・オブ・ステート”は、1953年にエリザベス2世の戴冠式のために作られたもので、真紅のベルベット製。
また、王妃の”ローブ・オブ・エステート”に関しては、この戴冠式の為に新たに作られたもので、デザインをロイヤル・スクール・オブ・ニードル・ワークが行い、手刺繍も施した。ローブ自体の製作は、イード&レイヴェンスクロットが行なった。
ローブは、国王の“ローブ・オブ・エステート”と同じリッチなパープルのベルベットを使用し、ロイヤル・スクール・オブ・ニードル・ワークのゴールド・ワーク技法で刺繍がなされ、カミラ王妃のサイファーもデザインに取り入れられている。
ロイヤル・スクール・オブ・ニードル・ワークがデザインした戴冠式ローブは、自然や環境をテーマに、初めてミツバチやカブトムシなどの昆虫を登場させ、国王の自然界への愛情を反映している。
またローブには植物も描かれ、カミラ王妃の結婚式のブーケにも使用され、エリザベス2世も愛した「リリー・オブ・ザ・ヴァレー」、希望を表す「マートル」、チャールズ国王の好きな花の一つで、7月生まれのカミラ王妃誕生月のお花「デルフィニウム」といった、個人的なイメージから選ばれた。
この公式記念画像でお召しになっているのは、どちらも”ローブ・オブ・エステート“である。
チャールズ国王はローブの中に、クリーム色のシルクのシャツ、パープルの戴冠チュニック、そして王立海軍のパンツをお召しになった。伝統は受け継ぎながら、ジョッパーズやタイツといったアイテムはやめ、現代に近いモダンな装いにアレンジをされた。
カミラ王妃の戴冠式ドレス
先の画像と共に公開された、カミラ王妃の公式画像がこちら。
バッキンガムパレスのドローイング・ルームにて撮影され、”ローブ・オブ・エステート”を羽織られたカミラ王妃。
その下にお召しになっている戴冠式ドレスは、兼ねてから愛用のデザイナー、ブルース・オールドフィールドのデザイン。モダンなアイボリーのポー・ド・ソア絹のドレスには、シルバーとゴールドの刺繍が施された花や祝いのバンティングが繋がりあっています。
またアンダースカートの中央裾部分と両袖の袖口には、イギリスを構成する4つの国花(バラ、アザミ、ラッパズイセン、シャムロック)も刺繍されている。
クイーン・メアリーの王冠と
戴冠式ネックレス
すでに前回語ったが、カミラ王妃の頭上で輝くのが、クイーン・メアリー王冠。
今回史上初めてとなる”ティアラのリサイクル”が行われ、曰く付きのコ・イ・ヌールではなく、生前エリザベス女王が愛用された3つのダイヤモンド、カリナンIII世(トップ)、カリナンⅤ世(中央)、カリナンIV世(下部)を使用してのアレンジがほどこされた。
これらのダイヤモンドといえば、勿論言わずと知れた、カットを手掛けたのがロイヤル・アッシャーである。
さらに首元で眩い輝きを放つのが、戴冠式ネックレス。
1858年にヴィクトリア女王のために作られた豪華なダイヤモンドネックレスは、1902年のアレクサンドラ女王、1911年のメアリー女王、1937年のエリザベス女王、1953年のエリザベス2世の戴冠式でも着用された。
ちなみに、カミラ王妃はピアスではないため、セットの戴冠式ピアスはお着けにならず、自身のコレクションから、ダイヤモンドのドロップイヤリングを着用されたのだそう。
キャサリン妃は、伝統のティアラから
モダンなヘッドピースを、母娘でお揃い
戴冠式当日、圧巻の存在感を見せられたキャサリン妃。
他の高位メンバー同様、最高位の勲章”ロイヤル・ヴィクトリア勲章“と共に、騎士団の鮮やかなブルーのマントとアイボリーのシルククレープのドレスをお召しになった皇太子妃。
ドレスのネックラインや袖口、裾には、英国4つの国花(イングランドのバラ、スコットランドのアザミ、ウェールズのスイセン、北アイルランドのシャムロック)のシンボルが、刺繍で表現されていた。さらに細かい銀糸細工には、クリスタルビーズも使用。
そしてなんといっても注目を集めたのは、ヘッドピースだろう。
ドレスのデザインを手掛けたアレキサンダー・マックイーンと、ミリナリー(帽子デザイナー)のジェス・コレットがコラボレーションし、ドレスの装飾に合わせた立体的な花のヘッドピースを製作。
本来であれば戴冠式では、ティアラの着用が伝統であったが、これも新国王体制のもと、近代的で親近感のある王室を目指すべく、ヘッドピースを選択されたキャサリン妃。
サイズ・ボリューム共に、現代版ティアラに匹敵する華があり、また愛娘シャーロット王女と同ブランドの洋服、ヘッドピースで超キュートな話題を振りまきながら、しっかり家族の絆をファッションでも表現されたことが印象的であった。
ヘッドピースのモチーフとなっているのは、やはり英国の4つの国花であった。
キャサリン妃のジュエリーは、
エリザベス女王とダイアナ元妃へのオマージュ
戴冠式当日、キャサリン妃が着用されたジュエリーには、亡き祖母と義理の母へのオマージュがあった。
まず、ダイヤモンドとパールのドロップイヤリングは、ダイアナ元妃が生前愛用されていたもの。
馬蹄と月桂樹の葉のモチーフにダイヤモンドがセットされ、そこからラウンドパールが吊り下げられたデザイン。
パールとダイヤモンドのジュエリーが定番のキャサリン妃だけに、以前から愛用されているイヤリングだが、実は、馬蹄の開口部分を背中側に向けられたダイアナ元妃とは逆であるところが興味深い。
ダイアナ元妃の着用画像がこちら。
キャサリン妃が着用される度、毎度逆にお着けになっていることから、これは明らかに意図的。どちらがベターかは、皆様にお任せしよう。(ちなみに筆者は、ダイアナ元妃に一票)
戴冠式当日には見られなかったが、公式画像でキャサリン妃がお着けになっている、ダイヤモンドの3連のネックレスは、”ザ・クイーンズ・ダイヤモンド・フェストーン・ネックレス”と称されるもの。
1950年代にジョージ6世が愛娘エリザベス王女のために作らせたもので、使用されたダイヤモンドは、王室の宝石保管庫に眠る、105個のコレットセットのルース・ダイヤモンド。
この画像でも分かる通り、在位中エリザベス女王がよくお着けになっていたネックレスであった。
続いて、戴冠式に出席されていた、オランダ王室のファッショニスタ、マキシマ王妃のファッションに注目。
オランダ王室
マキシマ王妃の戴冠式ファッション
カラフルな装いがお得意なマキシマ王妃だが、この日はノーブルな白を選択された。
ビスポークでこの日のために作られたドレスは、オランダを代表するデザイナー、Jan Taminiauのもの。
2013年、ウィレム=アレクサンダー新国王の就任式の際、王妃がお召しになっていたロイヤルブルーのドレスとケープもこの方のデザインと、マキシマ王妃のお気に入りデザイナーである。
ネックラインにフラワーモチーフのカットアウトが、上品な華やかさを持たせ、フレアーのミディ丈スカートには、ロープベルトがあしらわれたドレス。
ドレスに合わせた、白のアシメトリーのお帽子にはボウタイのようなお祝いモチーフが施され、ポインテッドトゥのパンプスや、エンヴェロープ型のクラッチなど小物はヌードカラーでまとめられたことで、シックでエレガントな着こなしになっている。
右手グローブの上に重ねられたブレスレットは、”ダッチ・イースト・インディーズ”(オランダ領東インド諸島)と称されるものの一部で、元は1937年にユリアナ女王がオランダ領東インド(現在のインドネシア)の人々から結婚祝いとして贈られた、さらに大きな一つのブレスレットの一部であった。
昨今は、その中の2つ、ダイヤモンドとプラチナのブレスレットを着用されることが多いが、この日は、そのうちの一つ(小さなサイズ)をお着けになっている。
さらに注視すると、ロープ・タッセルのベルトに、ダイヤモンドのクラスター・ブローチもお着けになるというこだわりも。
ゴージャスなイヤリングは、
王室至宝のティアラの一部
このイヤリングは、オランダ王室のレガリアの一つ、”スチュアート・ティアラ”の一部分である。
”スチュアート・ティアラ”のトップ部分にセットされている、4つのクラスターから作られたもの。
スチュアート・ティアラとは
スチュアート・ティアラは、オランダ王室の至宝の中でも最も希少で歴史的なダイヤモンド、スチュアート・ダイヤモンドが含まれている。その重さは40カラットにも及ぶ。
スチュアート・ダイヤモンドの最初の所有者は、スチュアート家の一員、ウィリアム3世(オレンジ公ウィリアム)の妻イングランド女王メアリー2世。当初はブローチとしてセットされていた。その後英国とオランダ間を行き来しつつ、1897年にデザインされたティアラに、ダイヤモンドがセット。
1898年にウィルヘルミナ王女(のちのオランダ第4代国王でウィレム=アレクサンダー国王の祖祖母)の叙勲の際、ティアラが着用された。
この”スチュアート・ティアラ”を最も頻繁に着用されたのが、ウィルヘルミナ女王の娘、ユリアナ女王。1948年の自身の就任を祝うガラコンサートや、デンマーク女王マルグレーテ2世の結婚式、1972年の英国公式訪問など、重要行事でこのティアラを着用された。
スチュアート・ティアラをフルセッティングで、
初めて着用されたのが、2018年の英国訪問時
ベアトリクス女王がスチュアート・ティアラを着用された姿は公開されていないが、孫嫁であるマキシマ王妃は、度々、小型バージョン(スチュアートを含め上段が無いもの)を着用されてきた。
そのデビューの機会となったのが、2018年の英国訪問。オランダ国王ご夫妻の訪英を祝し、バッキンガムパレスで、エリザベス女王主催の晩餐会が開催された時であった。
オランダ王室にとって代々受け継がれるロイヤル・コレクションであることはもちろん、昨年逝去したエリザベス女王への追悼の意が込められていることはいうまでも無い。
前女王と次期女王が揃って
ネイビーの装いで、レセプションに出席
戴冠式前日、バッキンガムパレスで行われたレセプションに、ウィレム=アレクサンダー国王の母、第6代オランダ国王ベアトリクスが、孫であり王位継承順位第一位のカタリナ=アマリア王女と共に出席された。
その時の装いは、お二人で仲良く、気品あふれるネイビーで揃えられていた。
ネイビーのパンツスーツでマニッシュ&スタイリッシュな着こなしの王女と、淡ブルーのプリントブラウスにネイビーのスカート、ケープを羽織られ、ブルーのグラデーションで気品溢れる上級コーデを見せられた元女王。
中でも注目すべきは、ベアトリクス王女の左手の指に輝くリング!
ロイヤル・アッシャーのスターズ バイ ロイヤル・アッシャー コレクションの、ホワイトゴールド×ブルーサファイヤリングを着用されているのがわかる。
オランダを代表するロイヤルジュエラー、ロイヤル・アッシャーの人気コレクションを歴史的な式典でお着けになっていることこそ、日頃からベアトリクス王女の愛用ぶりがうかがえるというもの。
代々、お洒落に定評のあるオランダ王室の皆様方だけに、歳を重ねても若々しく、そしてさりげなくジュエリーを着けこなす術を見習いたいと思うのである。
PROFILE
にしぐち瑞穂(にしぐち・みずほ)
英国王室研究家、コラムニスト、スタイリスト。TVアナウンサーや雑誌等、スタイリストとして長年活躍。イギリスに魅了されロンドンに移り住み、帰国後は雑誌『25ans』やオンライン『ミモレ』で英国にまつわるコラムを連載。YouTubeチャンネル『ロイヤルスクープ』では王室情報を配信中。著書『幸せを引き寄せる キャサリン妃着こなしルール』(幻冬舎)
Text: にしぐち瑞穂 イラスト作画:コダママミ