『ロイヤル・アッシャー、輝きの物語』では、創業170周年を迎える“ロイヤル・アッシャー”の魅力を業界の有識者、及びブランド関係者それぞれの視点、角度から語っていただくことで、170年の歴史を辿るとともに、新たなブランドの魅力を来年の1月までの全6回でお伝えしてまいります。第4回は、「ロイヤル・アッシャー」の広告キャンペーンのクリエイティブ・ディレクションを手がける関谷麻美氏に、ブランドの魅力と制作にまつわる舞台裏をお伺いしました。

名門ジュエラーによるエフォートレスな煌めき

黄色のチューリップが咲き誇るなか、ウェディングドレス姿の花嫁が駆け抜ける2018年のキャンペーンより。

―2018年より3回にわたって「ロイヤル・アッシャー」のキャンペーンイメージをご担当されていますが、ブランドのどんな側面を映し出そうと取り組まれたのでしょうか。

一流ブランドのダイヤモンドジュエリーが美しいのは当然のことですから、その上で「ロイヤル・アッシャー」ならではとは何かを探すのが一番大事だと考えました。その答えのひとつが、オランダが誇るブランドであるということ。また、日本ではダイヤモンドと言えばラウンドブリリアントカットがお馴染みですが、「ロイヤル・アッシャー」には「ロイヤル・アッシャー・カット」と呼ばれる、上から見てスクエアに仕上げたオリジナルのダイヤモンドカットがあります。この2点は、ブランドの独自性だと強く感じました。

美術史を学ばれた関谷麻美さんにとってオランダは芸術的にも惹かれる国。「特にゴッホはいちばん好きな画家の1人です」

―それが、最初のキャンペーンの美しいチューリップ畑の映像につながったんですね。

はい、日本人はオランダにはとてもポジティブなイメージを抱いていますよね。歴史的にも日蘭には深い関係がありますし、マキシマ王妃と皇后雅子さまもご親友です。チューリップは日本でも春を代表する親しみのある花で、誰もがすぐにオランダを思い浮かべるはずです。
また、日本の女性がどんな風に祝福されたいかをよくよく考えると、ガーデンウェディングに憧れている方はとても多い。それで、オープニングは絶対にチューリップが一面に広がるなかを花嫁が駆け抜けるシーンにしようと決めました。先にはおそらくパートナーが待っていて、花嫁は愛や希望、未来に向かって走っていく。そんなメッセージが伝わればいいなと願いました。

―満開の花も見事でしたし、オランダらしい風景が随所にありましたね。

実は撮影時にはほとんどのチューリップ畑が出荷を終えていて、このシーンのためだけに特別に収穫を待ってもらったんですよ。あとは風車や運河など、オランダ、アムステルダムらしい景色をよりロマンティックに感じられるよう意識しました。“お花の国”という響きだけで心ときめきますよね。ヨーロッパのなかでも、日本人にとってオランダは、憧れを抱きつつ身近に感じられる特別な国なんだと思います。

―運河を巡る船上でのパーティのシーンにも目を引きつけられました。

最初は2人だけのパーティシーンを考えていましたが、代々ビジネスを受け継ぐ「ロイヤル・アッシャー」の背景にはファミリーの深いつながりがありますよね。ですから、途中で家族というキーワードを盛り込みたいと閃いたんです。それで、美しいアムステルダムの情景のひとつでもある運河を巡るクルーズ船でパーティができると聞いて、だったら夜ではなく、昼間の明るい雰囲気に包まれながら、ファミリーで2人を祝福するシーンを入れたいと思いました。

純白のドレスをまとった花嫁の手元には「ロイヤル・アッシャー・カット」のエンゲージリングが輝く。

―花嫁や家族の装いと「ロイヤル・アッシャー」のダイヤモンドの着けこなしも印象的です。

オリジナルでエターナル、そしてグレースフルというのが、私のモットーなんです。ですから「ロイヤル・アッシャー」のキャンペーンでも、品のあるピュアなモダンさを表現しつつ、永遠性のあるクラシックな要素を大切にしました。流行を追うのではなくて、例えば5年後、10年後に目にしても古くさくはない。それはヴィジュアル制作でいつも大事にしていることですね。

立体の切り絵で描いた2021年のキャンペーン。ブライダルと一緒に「ロイヤル・アッシャー・シグニチャーカット」コレクションが取り上げられている。

―2作目となる2021年のイメージ動画はがらりと雰囲気を変えた手法ですね。

制作時の2021年はコロナ禍の影響でまだ誰も身動きが取れない状況でした。そんな環境下ですから、表現するのはオランダのロイヤルなイメージですが、日本でしかできないこと、日本のオリジナリティを追求したいと考えました。

―それで世界でも珍しい“立体切り絵”を採用されたんですね。

はい、作家の菊池絢女さんにお願いし、立体切り絵を使ったムービーを制作しました。以前から雑誌などで仕事をご一緒していて、ふと“彼女の作品が動くのは目にしたことがないな”と思ったんです。どう実現させるか大きな課題でもありましたが、日本の伝統文化を活かした切り絵は、歴史に育まれた「ロイヤル・アッシャー」の職人技にも通じると思いチャレンジしました。

―この映像でも登場するチューリップ畑も、切り絵で表現されているんですよね。

はい、とても精巧に作られているので本物と見紛うほどの出来栄えでした。既存の紙を使うとコントラストがつきすぎてしまうので、色のニュアンスやトーンなどもひとつひとつ話し合ってオリジナルカラーで染色してもらっています。切り絵の制作だけで2ヵ月ほどを費やして作られた渾身作です。

チューリップの花びらが包む「ロイヤル・アッシャー・カット」のダイヤモンドに花嫁妖精がそっと降り立ち可憐に踊る。

―「ロイヤル・アッシャー」の歴史が織り込まれた美術館のシーンや、自転車が空を飛ぶラストシーンも素敵でした。

真っ赤な壁はハーグのマウリッツハイス美術館をイメージしていて、降り出したダイヤモンドの雨粒に濡れないよう雨宿りをするという時の経過も表現しています。壁の展示では、「ロイヤル・アッシャー」の歴史写真やオランダのシンボルと一緒に「ロイヤル・アッシャー・シグニチャーカット」コレクションを紹介しています。それを眺める妖精花嫁の影だけを背景に映し出して、最後には美術館を出て「ロイヤル・アッシャー」の本社屋へと飛んでいくというスクリプトです。ゴッホやフェルメールなどの、オランダを代表する作家の作品も切り絵で表現して飾ってあるんですが、実は私が落書きしたミッフィーなど、スタッフ全員が作ったものをひとつずつ入れているんですよ。今初めて外部の方にバラしましたが(笑)

歴史写真と新作が飾られた美術館の壁。目を凝らすと、飛んでゆく妖精花嫁の影が。

また、このストーリーを共同代表のリタ・アッシャーさんにご説明したときに盛り上がって、ラストシーンの自転車の車輪が「ロイヤル・アッシャー・ブリリアントカット」になっているのは彼女のアイデアです。

2022年キャンペーンムービーでは、幸せな2人の永遠の愛にそっと寄りそう、ダイヤモンドの美しいストーリーが描かれている。

―2022年9月より展開中の最新キャンペーンで新たに取り組まれたことはどんな点でしょうか? 

1作目にはいわゆる“プロポーズ”や“挙式”といった、結婚にまつわる具体的なシーンはなかったので、それをできるだけおしゃれなイメージで表現したかった。ありきたりのではなくて、日本の花嫁が心から憧れてくださり、本当にこんな風に式をあげたいからこのリングにしたい、とインスピレーションが湧くようなウェディングですね。そのひとつが馬車のシーンです。キャサリン妃もそうでしたが、ロイヤルウェディングというとみなさん馬車で登場しますよね。そのロイヤルなムードを演出したくて、このシーンを盛り込みました。また、今回もいかにオランダらしさを表現できるかは重要でした。

―ストーリーの舞台もクラシックで素敵なロケーションですね。

はい、煉瓦造りの建物なども海外から資材を調達するなどして細部までこだわっているらしく、美しい映像に仕上がりました。大きなシャンデリアが輝く館や実際の挙式会場も入れ込んでいます。ロイヤルな雰囲気が漂うなか、自然なリングの交換や、とても可愛らしいプロポーズなど、幸せな2人の姿を撮影できたかなと思っています。

クラシカルなシャンデリアに照らされながら、2人でステップを刻むロマンティックなシーン。

―以前にオランダにいらした際には、アッシャー・ファミリーにも直接取材されたそうですね。

1作目の撮影のふた月ほど前に訪れていて、共同代表のマイクさんやリタさん、彼らのお父様で名誉会長のエドワードさんとお食事をしたり、本社もいろいろと拝見させていただきました。とても地に足がついた気さくな方々で、すぐ目の前でダイヤモンドの原石をパラパラとテーブルに取り出して見せてくださってびっくり。それだけでも数億の価値があるんですが、やっぱりアッシャー家の皆さんにとって、それだけダイヤモンドとは身近に存在するものなのだと実感しました。
170年、6代にも渡って受け継がれてきたわけですから、由緒正しき伝統であり、偉業ですよね。が、ファミリーにとってはもっと日常的で、常にダイヤモンドと一緒に人生を歩んでこられたのではないかと思います。

―それは「ロイヤル・アッシャー」というブランドのあり方にも影響していると思われますか? 

「ロイヤル・アッシャー」には来賓者が署名を記した“ゴールデンブック”と呼ばれる名簿があるんですが、そこには国賓、例えば日本の皇太子(ご即位前の明仁親王[上皇陛下])の名も残されているんですね。マイクさんやリタさんも、そして現名誉会長のエドワードさんも、お父様やお祖父様にそうしたものを幼いころから見せられながら育ってきたんだと思います。それはもう資料のなかの世界ではなくて、ファミリーのパーソナルなやりとりですよね。
ヨーロッパには歴史あるジュエリーブランドは数多くあります。ですが、ファミリービジネスから離れてグループ傘下に入っているブランドも多いですし、装飾性のある華美なスタイルもやはり好まれます。そんななか、オランダにはロイヤルと言えど良い意味で質素でありながらも、親しみやすい文化が根づいている気がします。
「ロイヤル・アッシャー」の魅力も同様です。そして、アッシャー家の皆さんの気さくさや親しみやすさの背景には、“原石や研磨されたダイヤモンド、カットする道具などがすぐそこにある”という日常があって。偉大な歴史は、ごく自然にご自身の血となり肉となっているのではないでしょうか。

―170周年を迎えて、これから先の「ロイヤル・アッシャー」にはどのような期待を抱かれていますか?

ダイヤモンドは高価ですし、簡単に手に入るものではない、やはり最高峰の鉱石ですよね。が、これみよがしな“贅沢の象徴”とか“資産”のような世界からは、アッシャー家自体が一歩も二歩も離れていると感じます。ロイヤルの品位を備えながら、肩の力の抜けたエフォートレス感がある。それは「ロイヤル・アッシャー」の独自性であり、魅力です。
本物の価値がありながら身近さを感じられるダイヤモンドは、オープンさやジェンダーレスが求められるこれからの時代にまさしく適しているのではないでしょうか。女性も男性も、ただ宝物のようにタンスの奥底にしまい込んだり、フォーマルだけに合わせるのではなくて、日常的にダイヤモンドを楽しむ。その方がずっとおしゃれですし、「ロイヤル・アッシャー」がそんなトップダイヤモンドジュエラーであり続けてくれたら素敵だなと、勝手ながら願っています。

PROFILE
関谷麻美(せきや・まみ)
東京生まれ。『流行通信』『CREA』『ハーパース・バザー日本版』編集部を経て、フリーランスのクリエイティブディレクター/ファッションエディターとして活動。ラグジュアリーモード誌やジュエリー&ウォッチ誌、ウェディング誌などで活躍するほか、ファッション関連広告やカタログ、ウェブ、単行本などを手がける。
Instagram:mamisekiya0906

Photo: Shinichi Kawashima  Text:Aiko Ishii